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「もどき」ではない、コスモポリタンな和食
日本人街があるデュッセルドルフには、50件を超える日本食レストランがひしめく。その中で、2015年12月にオープンした「ADJITO(アジト)」が異彩を放つ。日本人の間ではほとんど知られていないが、トレンドセッター的なドイツ人の間で大人気。有力地方紙のRheinische Postにも取り上げられ、Facebookで500回以上シェアされている。
一言で表現するとと、「コスモポリタンな日本食」。しかし、現地人が経営する「もどき」の和食レストランとは異なる。経営者の1人は日本生まれ・日本育ちの日本人男性で、
好奇心そそる店名、異色のロゴ

日本レストラン「ADJITO」の一風変わったロゴ(同店のホームページより)
- 店名の「ADJITO」は短くて、外国人にも発音しやすく覚えやすい。スタイリッシュな響きがある。
- ADJITO(アジト)は日本語で「秘密の隠れ家」を意味する言葉だとホームページなどで説明しており、潜在客の好奇心を掻き立てる。
- ロゴに昆虫(蚕?)を用いている。飲食店のロゴとしては珍しいが、西欧の都会の若者にはクールに映る。
店内は薄暗いアジト、ど真ん中に調理ショーのキッチン
- グレー、ブラック、ダークブラウン、メタリックカラーを基調とした店内(200㎡)は薄暗く、「アジト」の雰囲気を醸し出している。壁やテーブルには、ガラスケースに入った昆虫の標本がそれとなく飾ってある。虫が嫌いな人もおり、万人向けではないが、様々な飲食店に行き慣れた都会の人たちは斬新に感じる。ドイツ人の客から、誰が内装をデザインしたのかよく聞かれるという。
- 地下のトイレに行く階段もペンキが飛び散って、アジトの雰囲気満点。大きな昆虫の標本も目に飛び込む。
- 店内のど真ん中にガラス張りの(スポットライトを浴びた)オープンキッチンがあり、それを取り囲むようにテーブル、カウンター、ソファーが配置されている。すべての方角から調理をする様子が見える。ドイツで人気のファストカジュアル・チェーンを見ても分かるように、客の目の前で調理をする「ショー・キッチン」は大きなトレンド。
(※ 店内の様子は同店のFacebookや撮影者のホームページで見ることができます。)
話題性のある、お手ごろ価格の「創作料理」
- 日本食をベースにした(洋食風の)創作料理。メニューの数は(まだ)少ない。クルプックを用いるなど、純和風にこだわっていない。
- 海外でも有名な日本料理(寿司、刺身、和牛、餃子など)を独自にアレンジ。「Wagyu Sashimi」、「Pink Veggie Sushi」、「Veggie Sashimi」、「Gyoza Salat」など、カッコいい名前を付けている。
- どの料理も見た目が独創的で美しい。食べる前にスマートフォンで写真を撮り、ソーシャルメディアに投稿する客も多い。
- 寿司も幾つかメニューにあるが、ラーメン、お好み焼き、餃子などB級グルメをベースにした創作料理がメイン。昨今のストリートフードの流行に合致している。
- 寿司を除くと7~16ユーロと中価格帯(ドイツ人が1回の外食にかける金額は飲み物も合わせて10~20ユーロが最も一般的)。日本レストランとしては手ごろな価格。
- アボカド入り揚げ餃子、豆腐入りラーメン、ベジタリアン「刺身」など、おしゃれなベジタリアン向けメニューが充実。ドイツ人の10人に1人が菜食主義者(日本・アジア料理を好む人に特に多い)なため、ニーズが高い。
- 飲み物もクリエイティブで種類が豊富。「Haru」、「Natsu」、「Aki」、「Fuyu」と日本の四季を冠した、ミネラルウォーターに(それぞれの季節にふさわしい)カットフルーツや香辛料を入れた飲み物が人気。ドイツのレストランでは飲み物メニューが充実していることが必須条件だ。昨今の自家製レモネードの流行にも対応している。

Pink Veggie Sushi(筆者撮影)

Wagyu Sashimi(筆者撮影)

Pulled Beef(筆者撮影)

Karaage(筆者撮影)

Gyoza Salat(筆者撮影)

Fish Salat(筆者撮影)
スタッフは「エンターテイナー」
- 給仕スタッフは若くてスタイリッシュなドイツ人男性。メニューを愉快に説明したり、客とスモールトークしたり、エンターテイメント性がある。近年、ドイツで人気の飲食チェーンでは、調理・給仕スタッフとの(友達感覚の)コミュニケーションが鍵となっている。
- 不定期だが、プロのマジシャン(ドイツ生まれの日本人)が客のテーブルで手品を披露。
異色の日本レストラン
ドイツ人の感想
- 「デュッセルドルフには日本レストランがたくさんあるが、このような店はまだなかった」
- 「レストランの雰囲気がクールでスタイリッシュ。薄暗くて、居心地がいい」
- 「客席のど真ん中にオープンキッチンがあって、最初はちょっとびっくりした。カウンターに座ると、調理をしている様子が見えて、とても面白い。コックとおしゃべりもできる」
- 「料理が小さな芸術品のよう。料理の組み合わせがクリエイティブで面白い」
- 「肉も魚も驚くほどやわらかくて、信じられないほど美味しい!デザート(胡麻のブラウニー)も完璧」
- 「インテリアも料理も、細部まで神経を使っている」
- 「デュッセルドルフにはもっと安くて美味しい、メニューの種類ももっと豊富なラーメン屋や寿司屋がある。だけど、この日本レストランは他に類を見ない」
ドイツ育ちの日本人の感想
- 「どの料理もおいしそうに、美的感覚いっぱいに盛り付けてあって、すごい!」
- 「日本人はやっぱり手先が器用だよね~ 細部まで気を配り、手を抜かないから」
- 「とってもクールで、カッコいいお店!美味しいし、ドイツ人の友達にも絶対におススメできる」
「普通」の日本人の感想
- 「日本の料理とはイメージが違うね…」
- 「日本ではないお寿司だね(汗)。見た目、ピンクが微妙な感じです…」
- 「ドイツの日本レストランはお料理がおしゃれだね~ 洋食っぽいね!」
海外(西欧)の外食トレンドにどんぴしゃり
- 異国の食べ物に興味があるけれど、エキゾチック過ぎても抵抗感がある
- Facebookなどソーシャルメディアで、ちょっと自慢できるような話題性がある
- 調理をしている様子が目の前で見れて、娯楽性がある
- クールでスタイリッシュな居心地のよい空間
- 調理・給仕スタッフと(友達感覚で)コミュニケーションできる
- 高品質で新鮮な素材を使っている
- 職人の手作り感がある
- ベジタリアン、ヴィガーン向けのメニューが充実している
- 流行のストリートフードがメニューにある
- 自家製のクリエイティブな飲み物があり、種類も多い
- エンターテイメントの要素があって、ヘルシーな料理。そして、何よりも手ごろな価格
- ・・・
- ・・・など
同店の成功は、和食や日本レストラン(居酒屋)を念頭に置きながらも、現地の最新外食トレンドや消費志向を徹底的に分析し、それに見事に応えていることに起因する。「日本料理はこうあるべき」とこちら側のこだわりを優先するのではなく、現地の人が何を求めているのか、どんなものを好むのか、海外のお客様のニーズに合わせた「マーケットイン」型の飲食店だ。
日本料理を海外で独自に考案した例も多く、たとえばすしでアボカドを使った太巻きの「カリフォルニアロール」は米国西海岸育ちの「日系人菜」だ。「初めて他国に渡った外国人が商売で料理を作るにはその国の人々の味覚や志向に合った味付けや工夫は欠かせない」という。 日本経済新聞 2016年4月5日付け記事(夕刊)より
欧州最大の経済大国 ドイツの外食産業について、海外展開や新業態開発に役立つ情報を網羅いたしました。ドイツは社会背景が現在の日本と似通っており、外食トレンドに関しても共通点・類似点が多く、新事業開拓の起点となり得ます。
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- 【基礎データ】 市場規模、業界動向、消費志向
- 【主な外食企業、卸売・輸入業者のリスト】 売上ランキング、企業概要
- 【アジア・日本料理店の概要】 現状と今後の展望、主要チェーンの一覧表・詳細プロフィール
- 【成功しているドイツ企業のケーススタディ】 経営戦略、業態・コンセプト、メニュー・価格
- 【日本企業の商機】 潜在的なチャンス、ドイツの外食業界との接触方法
ケーススタディ①では国際的に成功しているドイツのファストカジュアル・チェーンを掘り下げて調査し、海外展開の成功の秘訣を探ります。ケーススタディ②では、ドイツ人がアジアの茶文化や日本のポップカルチャーを外食ビジネスに結び付けている様子をリポートします。
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