ドイツの有力経済紙Handelsblattは75周年を記念して2021年5月、「イノベーションウィーク」の特集を組んだ。イノベーションの専門家からなる委員会が、「今後数年間でドイツを前進させる75のイノベーション」をリストアップ。下記に、まずはインダストリー4.0分野と輸送・物流・宇宙分野におけるイノベーション(1~13)を紹介する。

重点分野(I) インダストリー4.0

「第4次産業革命」が現在進行中。デジタル化・自動化・AIによって、企業の仕事場が効率化されている。生産上の問題を予知するアルゴリズム、同僚としてのロボットなどが既に実現。第5世代移動通信システム(5G)が導入されれば、近い将来、さらに多くのデジタル技術が現実になる。

(1) インテリジェントな工場

ネットワーク化された工業生産はドイツ発祥のアイデアで、世界中で製造業のデジタル化の波を引き起こした。工場でAIが普及するにつれ、‘インテリジェントな工場’は次の段階に入る。

注目のプレイヤー: シーメンスボッシュなど

(2) プロセスマイニング

プロセスマイニングのアルゴリズムは業務プロセス(購買・調達プロセス、営業・販売プロセス、物流プロセスなど)の問題点を明らかにする。プロセスマイニングはドイツで研究開発され商用化された有望なデジタル技術。

注目のプレイヤー: CelonisSignavio/SAPProcess Gold/Uipathなど

(3) 協働ロボット(Cobot)

コロナ危機の最中、協働するロボットは多くの工場で生産を継続。パンデミックが協働ロボットの普及のきっかけになり得る。この分野で、ドイツのスタートアップ企業は前の方にいる。 ]

注目のプレイヤー: Franka EmikaHahn RoboticsEnergy RoboticsKukaArtimindsDrag&BotRobomindsなど

(4) ノーコードでロボット動作をプログラミング

デジタル化によりプログラミングの需要が増える中、IT専門家が不足。ドイツのスタートアップ企業が素人でもIT知識なしにロボットの動作計画をプログラミングできるツールを開発。

注目のプレイヤー: Wandelbot

(5) ローカル5Gネットワーク

ドイツの民間企業や研究施設は独自のローカル5Gネットワークを立ち上げ、未来のデジタル技術(航空機のタービンの遠隔保守点検、工場における機械・装置間の瞬時の無線データ交換など)を試験している。

注目のプレイヤー: ルフトハンザボッシュボン大学病院など

重点分野(II) 輸送、物流、宇宙

渋滞したアウトバーン、壊れた橋梁、古くなったレール、いつも遅れる列車など、ドイツの交通インフラは実にひどい状態にある。それらが近い将来、過去のものとなり、空中や地中で人々をもっと速くストレスなしに目的地に運ぶ全く新しい移動手段が現れ、物流でも新しい技術による改革が期待される。宇宙産業の発展は言うまでもない。

(6) NewSpace(民間主導の宇宙開発)

ドイツには125社のNewSpace企業があり、その中の1/3が設立5年未満のスタートアップ企業である。顧客企業には、鉄道、エネルギー、製薬・病院など、古くからある業界の企業が多く含まれる。自動運転、インダストリー4.0、他のデータ駆動型ビジネスモデルなど、成長分野の発展にNewSpace企業が貢献する。

注目のプレイヤー: YuriIsar AerospaceRocket FactoryHyimpulseLiveEOOroraTecheightyLEOAlcan SystemsAirbus Defence and SpaceOHBなど

(7) 火星ミッション向けカメラ

ドイツの光学機器メーカーJenoptikは、アメリカ航空宇宙局(NASA)の火星ローバー「パーサヴィアランス」向けに非常に厳しい条件を満たした光学機器を開発・生産した。NASAの火星ローバーには、計28の同社の光学機器(レンズ)が使われている。ドイツ企業が火星ローバーの‘目’を納入したことで、先端技術における存在感を示す良い機会となった。

注目のプレイヤー: Jenoptik

(8) 空飛ぶタクシー

アーバン・エア・モビリティ(都市間や都市と郊外の間を空を使って輸送する交通システム)は大きな未来テーマのひとつ。世界の200社以上がこの新しい航空輸送手段の開発に取り組んでいるが、ドイツのスタートアップ企業2社が電動式の垂直離着陸機の商用化に向けて最前列に立つ。

注目のプレイヤー: LiliumVolocopter

(9) ブロックチェーンを用いた国際物流

ドイツの国際輸送物流大手は国際物流におけるブロックチェーンの導入に意欲的に取り組む。例えば、越境EC(インターネットを介して国内から国外へ向けて商品を販売する商取引)で返品する場合に二重の関税を回避するために、ブロックチェーンの活用を試験している。ブロックチェーンを用いることで全ての商品が確実に特定でき、全ての処理段階が追跡可能。

注目のプレイヤー: DHL

(10) ハイパーループ

イーロン・マスクが提案する「ハイパーループ」は、地中(もしくは架空の)ほぼ真空のチューブの中に浮かんで電磁気で動く新しい輸送方法。空気抵抗や摩擦を受けないため、エネルギー効率が高く、超高速の移動が可能とされる。米国、オランダ、フランスなどにもハイパーループに取り組むチームや企業があるが、最高速度457km/hの記録を持つミュンヘン工科大学のチームが先頭に立つ。同チームは、SpaceXがこれまで開催した計4回の「ハイパーループ・ポッド・コンペティション」で常に優勝。

注目のプレイヤー: TUM Hyperloop

(11) クラウドから鉄道交通を制御

シーメンスのCEOにとって、同社の「画期的なイノベーションはクラウドの中の信号扱所」という。鉄道信号機や転轍機を制御する連動装置をデジタル化、ハードウェアに依存しないクラウドベースのソリューションにする。電子連動装置(CBI)や欧州列車制御システム(ETCS)コンピューターなど、ほぼ全ての信号コンポーネントを仮想化。鉄道交通網をクラウドから制御することで、列車は時間に正確になり、故障予測や予知保全も可能になる。

注目のプレイヤー: シーメンス

(12) 運送のデジタル化とAI活用

ドイツの運送会社は旧態依然としており、新しい技術が中々浸透しない。そのような中、ドイツのスタートアップ企業が運送業界に革命を起こしている。AIを用いて、交通状況、指定時間帯、運転手の休憩時間なども考慮して最適化された輸送ルート計画をクラウド経由で提供。将来的には、自律輸送システムのためのAIベースの最適化エンジンを目指す。

注目のプレイヤー: SmartlaneCarrypickerSennderFleetize

(13) Air-to-Groundインターネット接続

現在、衛星通信を用いた機内インターネットは高コストで速度が遅い。ノキアから2019年にスピンオフしたドイツのスタートアップ企業は、欧州の上空でATG(Air-​to-Ground)方式の高速機内インターネット(100Mbit/s)を低額(1ビット当たり100分の1程度)で提供する。航空会社はリアルタイムの情報を基に飛行ルートを最適化したり、オンライン故障診断などに利用できる他、乗客に地上と同様のネットサービスを提供できる。将来のアーバン・エア・モビリティー(空飛ぶタクシー)にも、ATG高速機内インターネットは不可欠

注目のプレイヤー: Skyfive

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重点分野(IV) 情報技術

1と0が世界を支配する。コロナ危機で、デジタル化が産業界の最後のコーナーにも到達。データ量はどんどんと増え、タスクはますます複雑になり、現在の情報技術は次第に限界に達する。パラダイムシフトの時が来る。未来は量子コンピューターのものになると予想され、ドイツも大きく力を入れる。その他にも、ドイツのIT分野でイノベーティブなことが起こっている。

(19) 量子センサー

量子状態は環境の影響(磁場、温度など)に対して非常に脆弱であるため、高い測定感度をもたらす。ドイツの中堅企業2社が共同で光学量子センサーを開発量産化にもっていき、2021年に最初の製品を市場に出す予定。量子センサーでは脳波の測定、壁の中に埋め込まれているプラスチック管の場所の特定、粒子の速度・分散の極めて正確な測定などが可能。例えば、半導体の生産においてクリーンルームの中のほこりの粒子を検知し、その量を計測できる(1ミクロンの1/5の粒子が計測可能)。

注目のプレイヤー: TrumpfSick

(20) 量子コンピューター「made in Europe」

独ユーリッヒ研究機構にて、欧州の産学の計10の組織が共同で欧州製の超電導量子コンピューター「OpenSuperQ」を開発。コロナ危機で半年遅れたが、2021年秋にまずは7、17キュービットの量子コンピューターが作動開始する。その後すぐに、50キュービットの量子コンピューターも稼働させる計画。オープンソースソフトウェアを介して、クラウド経由で外部のユーザーが利用できるようにする。最初のアルファ版のテストユーザーには、ボッシュ、カール・ツァイス、Trumpf、アストラゼネカが含まれる。

注目のプレイヤー: OpenSuperQ、ボッシュ、カール・ツァイス、Trumpf、アストラゼネカ

(21) AIによる文章生成

元アップルのイノベーション・マネージャーだったドイツの起業家が米国のOpen AIに対抗して、文章作成AI技術を開発する。最初のユーザーにはドイツ連邦印刷会社が含まれる。ドイツ連邦議会での質問の回答をもっと早く作成するために、AIシステムを活用する実証プロジェクトを行っている。英語一辺倒の米国とは異なり、将来的に欧州のマイナーな言語もサポートするという。欧州のデジタル主権への貢献も期待される。

注目のプレイヤー: Aleph Alpha

(22) ラーニング・アナリティクス

ラーニング・アナリティクス(ビックデータ・AIベースの学習プログラム)には、学習や授業を大きく変える潜在性がある。各生徒の状態に適合し、どのように学んでいるか分析する。授業の質を向上し、教師の負担を大幅に軽減できる。ドイツの大学や研究機関は、英語や数学の学習のためのラーニング・アナリティクスを開発。

注目のプレイヤー: チュービンゲン大学の計算言語学者グループライプニッツ自然科学・数学 教育学研究所

(23) パワー半導体

電気自動車、サーバーのエネルギー供給、太陽光・風力発電などに必須のパワー半導体。最大手の独インフィニオンは業界に先駆けて早い時期に、パワー半導体の300mmウエハーによる量産技術を開発し、ドレスデン工場で実用化。300mmの方が200mmよりも2.25倍多くのチップが製造でき、単価を最大30%削減できる。2021年夏(予定よりも3ヵ月早く)、オーストリアのフィラッハにも300mm拠点を開設する。ドレスデン工場とフィラッハ工場はひとつの仮想ユニットとして機能する。

注目のプレイヤー: インフィニオン

(24) DNAコンピューター

従来のコンピューター技術は物理的限界に達する。量子コンピューター、ニューロモーフィック ・チップ(脳型チップ)、DNAコンピューティングなど、新たなハードウェアが必要になる。DNAコンピューターでは、デオキシリボ核酸(DNA)の4種類の塩基を演算素子として、試験管の中で計算を行う。分子生物レベルで超並列的な処理をするため、超高速でしかも極めて低エネルギーで情報を処理できる。現在まだ基礎研究の段階だが、ドイツの大学もこのテーマに取り組んでいる。

注目のプレイヤー: パーダーボルン大学イェーナ大学